T美さん 〜都会の女は手ごわかった〜
このブログでは、若い頃の恋愛、勘違い、見栄、失敗を自虐多めで振り返っています。笑い話っぽく書いていますが、本人としては当時それなりに本気でした。
前回、大学でぼっちになりかけていたボクが、ひょんなことから東京育ちのイケメン先輩3人組に拾われ、そこに他大学の女子2人を加えた6人の「イツメン(いつものメンバー)」が誕生した話を書いた。
今回は、そのイツメンの女子のひとり「T美さん」に、田舎者のボクが見事に舞い上がり、そして現実を突きつけられたお話である。
■ モデル級の美女と、深夜の長電話
女子2人のうちの1人であるT美さんは、とてつもない美人だった。
聞けば、モデルのバイトもちょこちょこやっているらしい。
当然、3人の先輩のうちのひとりがこのT美さんにぞっこんだった。
でも彼女はのらりくらりと彼をかわし、なかなか恋が成就するようには見えなかった。あとで知ったことだが、当時T美さんは「付き合っている」と思っていた芸能人に遊ばれて、傷つきながらもその恋をまだ引きずっていたようだ。
そんな不安定な時期に出会ったせいもあってか、何かの拍子にボクは夜、T美さんと電話で話すようになった。
その頻度は次第に増し、時には朝方まで話すようになっていった。
T美さんは時々恋バナをしながら、電話の向こうですすり泣いていた。
「今度デートしませんか?」
ダサい誘い文句だが、ボクは勇気を振り絞ってT美さんに言った。
「いいよー」
何の躊躇もないこの返し。
今思えば、彼女の手慣れた感と「ただの話し相手(後輩)」としての余裕がひしひしと伝わってくるのだが、当時のボクはそんなことには気づかない。
■ 渋谷109と代々木公園のフリスビー
待ち合わせは渋谷109前。
上京してまだ半年もたたないボクが、一体どんなダサい格好をして渋谷に立っていたかは、皆さんのご想像にお任せする。
しばらくすると、スクランブル交差点の方からオーラを放ってT美さんが登場した。
すれちがう男子がみな振り返って二度見しているように見えた。
「おなかすいたーぁ、なんか食べよっ!」
とりあえずランチを済ませたのち、T美さんがおもむろに言った。
「ねぇ、公園行こうよ」
公園に向かう途中、東急ハンズに寄ってT美さんはフリスビーを買った。
初夏の代々木公園。
路上バンドやパフォーマー、それを冷やかす親子連れや若いカップルを脇目に見ながら、広い場所を探してボクたちはプラスチックの円盤を投げ合った。
もう一度言うが、この時ボクはまだ地方から上京して半年もたっていない。
そんなボクが、代々木公園で、洗練されたファッションの美人とフリスビーである。自分が映画の中のワンシーンにいるような、夢見心地の気分に浸っていたことはお分かりいただけると思う。
■ 終わりの早い夏
そんなこんなで、ボクはすっかりT美さんに魅了されてしまった。
夏休みの計画を夜な夜な妄想するようになっていた。海に行くか、それともどこか遠出するか。
ある日の電話で、ボクは探りを入れた。
「え? わたし、夏休みは実家に帰るよ。……うん、9月まで」
T美さんはだいぶ西の地方都市出身だった。
ボクの夏休みは終わった。
妄想から現実世界に一気に引き戻され、自分一人が勝手に舞い上がっていたことに気づかされる。
もちろん帰省後も、T美さんはときどき実家から電話してくれたし、ボクもした。
しかし、SNSの無料通話などない時代である。長距離電話の通話料はバカにならず、そう頻繁に電話で話せるはずもない。
ボクの意識の中でT美さんが占める割合は、次第に減っていった。
でも、心のどこかで9月になるのを心待ちにしていたのも事実である。
ーーー
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
今思えば、完全に「都合のいい愚痴聞き役の後輩」だったわけですが、当時のボクは本気だったんです……。
そしてこの後、9月になって東京に戻ってきたT美さんから、ボクはさらに残酷な現実(というかドヤ顔)を突きつけられることになります。
次回は、ボクが「チェリー」とお別れする少し生々しい話か、その後のイツメンのドロドロした展開について書いてみようと思います。お楽しみに。